著者 : 鈴鹿大学講師 高見啓一
検太郎は最近、顧問先の若手社員とランチミーティングをするようにしている。これは検太郎の発案ではなく、「若手社員に自由にしゃべらせてほしい」という顧問先の社長の意向であった。若手社員の間からは最近見たテレビの話や、仕事の愚痴など、遠慮ない雰囲気で色々な話題が飛び出すのであった。
林田 | 「昨日のテレビ見た?最近人気の番組。」 |
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北山 | 「ああ、昔失敗した芸能人とか著名人が、そのころの反省を語るやつね。」 |
検太郎 | 「僕も見たことあります。めっちゃ人気みたいですね。林田さんも北山さんも見てるんですね~。」 |
北山 | 「過去の失敗経験って、たしかに説得力あるよね。」 |
林田 | 「『俺みたいになるなよ』ってことなのかもしれないけど、けっこう尊敬できる部分があったりとか。そういうところが人気の秘密なんだろうね。」 |
検太郎 | 「経営の世界でも、過去に失敗した人の話とかは面白いですよ。講演会やセミナーでは、成功話よりも失敗談の方が食いつきがよかったりします。」 |
北山 | 「そういえばうちの会社にもいますよ。昔苦労した話とか、失敗した話とか、会社をつぶしかけた話とか・・・そういう話をしてくるベテラン社員の人。」 |
検太郎 | 「おお、まさに『生き字引』ですね!」 |
林田 | 「でもさ、その人、二言目には『お前は会社が潰れかける経験をしていないから、まだまだ甘い』って言うんです。」 |
検太郎 | 「たしかに、やろうと思ってもなかなかできない経験ですしね~。」 |
林田 | 「・・・っていうか、したくないです(笑)でも、そう言われると言い返せないというか・・・。」 |
北山 | 「二言目には『営業ってのは戦場なんだ』『生きるか死ぬかの戦いなんだ』だもんなぁ・・・」 |
検太郎 | 「熱いですねえ。経営学でも、その人の歴史に依存するようなものは『経路依存性』が高いっていいますしね。人間も会社もそういう経験は、見ただけでは真似できませんから『強み』になるんですよ!たしかに。」 |
林田 | 「う~ん・・・でも、なんというか、納得させられるというか。でも、どうも腑に落ちないというか・・・」 |
検太郎 | 「 腑に落ちない・・・?」 |
林田 | 「う~ん・・・何と言ったらいいんですかね。そういう話ばかり聞かされる僕たちの気持ち・・・」 |
検太郎 | 「ウザいんですよね(笑)」 |
林田 | 「それ!」 |
北山 | 「それです!」 |
林田 | 「ウザいんだよな~。あの人(笑)」 |
北山 | 「俺もそれ言いたかった!うん!ウザいんだ。」 |
検太郎 | 「あまりいい言葉じゃないんですけどね。こんなにシックリくる言葉はないです。そういう人を「ウザい」って言うんですよね~(笑)さすが若者言葉。世代間ギャップを見事に表しているなあ・・・うんうん。」 |
林田 | 「でも、いいんですかね・・・目上の人をそんな風に思っても。」 |
北山 | 「いい話をしてくれているのは確かなんだし、なんだか良心の呵責が・・・。」 |
検太郎 | 「人の気持ちはコントロールできませんから、いいんじゃないですか?ウザいものはウザいです。そういう人、どこでもいますもん。」 |
林田 | 「あはは。ランチミーティングならではですね。」 |
検太郎 | 「過去の失敗を乗り越えてきた人は尊敬します。でも、それ以上に尊敬できる人は、過去の失敗を乗り越えてきたけど、それを自慢しない人でしょうね。」 |
北山 | 「自慢しない人・・・?」 |
検太郎 | 「『ピエロが手まめ見せてどうすんねん!』って言ってた芸人さんがいましたが、そういうことなんでしょうね。その人のしてきた苦労は、言わなくってもちゃんと仕事に出ますよ。」 |
林田 | 「そういえば、検太郎先生も・・・こう見えて・・・」 |
北山 | 「意外と・・・苦労してたりとか・・・?」 |
検太郎 | 「さあ、どうでしょうね~。ご想像にお任せしますよ。資格や検定試験なんかでも、○○回落ちたってことを自慢げにしゃべる人いますけどね。」 |
北山 | 「あ、いますよね!そういう人。」 |
検太郎 | 「不思議と、ちゃんと合格できる人、仕事ができている人は、そういうことを吹聴したりしないです。でも、聞けば話してくれますよ。」 |
林田 | 「検太郎先生の失敗談も聞かせてくださいよ~。」 |
検太郎 | 「金にもならない自慢話はしませんってば(笑)あ、でも簿記の2級は2回落ちてますよ。お二人は1回で受かってくださいね。」 |