原作:髙見啓一(鈴鹿大学講師)
イラスト:高木
<あらすじ>
ヒーローにやられっぱなしの悪の秘密結社「ZAIM」の統領と戦闘員たち。左遷先のRPGの世界では、魔王軍の「モンスター製造工場」を任されたのであった。
統領 | 「ゴーレムの製造原価にはビックリしたのう・・・。やはり強いものはお金がかかる。」 |
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戦闘員A | 「最近はレンガの価格も上昇していますからね。予定では1個あたり50円の予定だったのですが・・・。ホームセンターがちょっと値上げしたみたいです。」 |
戦闘員B | 「ゴーレムの材料、ホームセンターで買ってたんすね(笑)」 |
統領 | 「ゴーレムにとってのレンガは『主要材料費』じゃからな。」 |
戦闘員C | 「出た!専門用語。」 |
説明しよう。主要材料費とは、「素材費」「原料費」とも呼ぶ。自動車の鋼板や、うどんの小麦粉といった、製品本体となる主材料のことである。
統領 | 「原料費だけではない。工場で使う消耗品や器具も、『工場消耗品費』『消耗工具器具備品費』と呼び、材料費に含まれるんじゃ。」 |
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戦闘員A | 「私たちが持っている軍手やスパナのことですね。」 |
戦闘員B | 「ひえ~。そりゃゴーレム高いわけだ。」 |
戦闘員C | 「ほとんど建設工事だもんな。」 |
統領 | 「まずは、主原料となっているものに敏感になることで、原価高などに対処した戦略が立てられるということじゃな。」 |
-カチャカチャ・・・ガチャガチャ・・・おなじみのスケルトン君が通りかかる。
スケルトン | 「あっしの主材料はカルシウムでやんす。これは安いでやんすよ。お買い得!」 |
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戦闘員C | 「お前の体、人工的に作られてるのかよ。標本かと思うと怖さ半減だな。」 |
統領 | 「お前なぁ・・・前にも言ったが、お前の場合は『買入部品費』が高いんじゃ。」 |
戦闘員B | 「こいつの装備は剣・鎧・兜すべて武器屋から買ってるんっすよね。」 |
統領 | 「自動車メーカーだってタイヤは外部から買うじゃろ?主原料と並んでコストに大きく影響する存在じゃ。」 |
戦闘員C | 「お前、素手で戦えるように、武闘家に訓練つけてもらえよ。」 |
スケルトン | 「え~。嫌でやんす。それこそ『骨折り損』でやんす。(カチャッカチャッ・・・)」 |
-やぶへびとばかりにこの場を退散するスケルトンであった。
統領 | 「まったく。どいつもこいつも、コストを意識せずに気楽なもんじゃ。」 |
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戦闘員C | 「でも統領、材料費の構造が分かったところで、下げる方法なんてなくね?」 |
統領 | 「もっと頭を使え。レアメタルとか原材料費の価格高騰時に、代替する原材料を検討するのは、どの企業もやっていることじゃろ? 」 |
戦闘員C | 「だからウチは最近『レアメタルスライム』を作ってないのか・・・。」 |
戦闘員B | 「単純に計算をすればいいってもんじゃないんすね。」 |
戦闘員A | 「石油に代わる代替エネルギーを模索する時代ですもんね。」 |
統領 | 「そう。原価計算は単なるコスト計算ではない。原価計算の考え方を通じ、社員一丸となって生産性向上や将来に向けての経営戦略まで考えねばならんということじゃ。」 |
-経営戦略の話になるとつい熱くなる統領(中小企業診断士を保有)であった。3人の中でも少しだけ優秀な戦闘員Aはこの期待に応えるのであった。
戦闘員A | 「はい、統領!たとえば部品の共通化はどうでしょうか?スケルトンにも使えるカルシウムを原材料にした煉瓦を組成して、ゴーレムの材料にするとか。」 |
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戦闘員B | 「それなら、レンガも少なくて済むし、材料調達時のスケールメリットが出るな。」 |
統領 | 「そうそう。お前は賢いな。そういう発想じゃ。」 |
戦闘員C | 「でも、モンスターのバリエーションはどうするんだよ?材料を共通化しすぎたら、似たり寄ったりのものしか作れないんじゃねえか?」 |
統領 | 「お前は批判の時だけは鋭いな。」 |
-なぜかタメ語で許される戦闘員Cがへらず口を叩いているその時、スライム君とその友達のレッドスライム君が顔を出すのであった。
スライム | 「ぷるぷる。僕たちはほとんど主原料だけだね。」 |
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レッド スライム |
「本当だね!コストに優しいよね。」 |
戦闘員C | 「よう!洗濯のり君!」 |
スライム | 「しょぼん・・・でもいいもん。コストが安いに越したことはないし。」 |
戦闘員A | 「レッドスライムには赤の塗料を入れているけどね。」 |
統領 | 「うむ。途中まで同じ製造ラインで生産して、最後の塗料・・・つまり安価な『補助材料』だけで1つバリエーションが増やせる・・・というコスト削減策の一つじゃ。」 |
戦闘員A | 「たしかに、製造ラインも増やさなくていいですし、助かります。」 |
戦闘員C | 「RPG製作スタッフのグラフィックデザインが楽だからだろ?」 |
戦闘員B | 「しぃっ!それを言うな!」 |
-ファンタジー制作現場のご都合を小耳にはさんでしまい、小さくショックを受けるレッドスライムであった。
レッド スライム |
「ええっ!僕たち塗料の違いだけなんだね~。ちょっとショック・・・。」 |
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戦闘員C | 「じゃあ、2匹とも赤と青の唐辛子で味付けしてやろうか?ハバネロスライムだ。」 |
レッド スライム |
「それだけはカンベン~。」 |
スライム | 「ぷる~(泣)」 |
-コスト削減策で生まれた自らの境遇に嘆く、ザコキャラたちであった。
次回予告
モンスターたちの材料費が明らかになりつつあるZAIM
材料費の削減のための検討を具体的に始めるのであった
次回「命をかけて削れ!モンスターの材料費」お楽しみに!